魚種変動の衝撃:第1部 イカはどこへ(1)長引く不漁 ハマ疲弊(2018/04/16)
デーリー東北

魚種変動の衝撃
第1部 イカはどこへ

 イカの街を突如襲った長期不漁。ほかにもイカと並ぶ二本柱のサバが小型化の傾向が続くなど、急激な変動に揺れている。現状と背景に迫るとともに、今後の針路を探りたい。

(1)長引く不漁 ハマ疲弊(2018/04/16)

八戸港に水揚げされるスルメイカ。さまざまな種類の漁船が生や冷凍で水揚げしている(写真はコラージュ)
 スルメイカ(マイカ)の水揚げで日本一を誇る「イカの街・八戸」のシーズンは、毎年6月下旬ごろに幕を開ける。
 近海では小型イカ釣り船が様子見がてら出漁するのを皮切りに、巻き網船、底引き網船と順次漁期入り。夏には津軽海峡を回って日本海に出漁した中型イカ釣り船も冷凍品の水揚げを始め、盛漁期の“ハマ”は一気に活気づく。
 国内のスルメイカ水揚げに占める八戸港の割合は毎年2〜3割。2017年シーズンは15年以降の記録的不漁を受け、期待と不安が入り交じる中で始まった。
 序盤こそ上々の滑り出しで水揚げ回復に期待が高まったものの、8月中旬の盆を過ぎると急失速。3年連続の不漁が濃厚になると、関係者の間には「覚悟はしていたが、ここまでひどいとは…」(加工業者)と失望が広がった。
 年末まで盛り返せないままシーズンを終え、17年の水揚げ数量は前年比22・9%減の1万3325トンと、過去30年で最低に。八戸と同じく有力産地の三沢港も13・9%減の1063トンで、数字が残る1989年以降で最低を更新した。
 近海のイカ釣り漁師、坂岡正彦さん(58)は「4年前の半分しか取れない。しかも全国どこにもイカがいないので、比較的取れるこの辺りに船が集中する。当然、1隻当たりの漁獲も減る」とこぼす。
スルメイカの水揚げ高推移
 ■地域経済を覆う影
 記録的不漁は八戸、三沢など北奥羽地方だけでなく全国的なもので、茨城県以北を主産地とする太平洋側の漁獲は過去5年平均の25%に落ち込んだ。特に釧路、羅臼などの有力産地がある北海道東はほぼ水揚げがない壊滅状態に陥った。
 数量の減少を受けて価格は高騰。不漁前と比べ一時は3倍となり、仲買や加工業者からは「とても手が出ない」と悲鳴が上がる。
 「漁業者は価格高で助けられているが、あまり高いと消費者が離れる。消費低迷で加工業者が減れば水揚げとのバランスが崩れてしまう」。自身も底引き網船や中型イカ釣り船を有する、水産卸・八戸魚市場の川村嘉朗社長は懸念する。
 影響は業界に暗い影を落としている。2月末には底引き網、イカ釣り船を計3隻所有した久栄漁業(八戸)が約13億円の負債を抱えて破産手続きに入った。長引くイカ不漁が体力の衰えた経営を直撃。戦後の復興期から八戸港の発展と歩みを共にしてきた老舗だけに、衝撃は大きかった。
 ■戻ってきた大衆魚
 先の見えないイカ不漁。その一方で水揚げを伸ばしている魚種がある。
 1980年代に全国で大量に水揚げされたが、90年代半ばの資源急減で食卓から姿を消したマイワシだ。近年はイカと反比例するように漁獲が増え“大衆魚”として復活しつつある。
 実は70年〜80年代にもイカ不漁とマイワシ豊漁に見舞われた。今回も、当時と同じように水揚げ魚種の大きな変動が起こった可能性が指摘されている。
 水産資源に詳しい、東北大大学院の片山知史教授(51)は「海の中でいろんな魚種が14年前後に入れ替わったようだ。漁獲の影響ではなく、自然の環境変化が背景と考えて間違いないだろう」との見方を示す。
 スルメイカの場合、資源減少は東シナ海の産卵場の水温低下が引き金との見方が強い。魚などの水産資源は環境変化によって十数年規模で資源量が変動することが知られ、何らかのきっかけで多くの魚種が一気に変わる「レジーム・シフト」の存在も90年代以降の研究で明らかとなった。
 大気と海洋の気候が専門の北海道大・見延庄士郎教授(55)はレジーム・シフトについて「物理的な気候状態で言うと、十数年続いたある状態がパッと急に別の状態に変化し、そのまま持続すること。70年代後半に非常に大きなシフトがあり、この変化に対応して海の生態系は種の構成が大きく変わった」とする。
 もし今回の変動がそうだとすれば、存在を突き止めてから、初めての明確なレジーム・シフトだ。
 ■今季の見通しは…
 もちろん、水産関係者も異変を肌で感じている。
 「今冬の産卵場は全く駄目というわけではない。だが、親イカが激減しており、今漁期中の資源回復は難しいのではないか」―。
 6日、八戸市水産会館で開かれた講演会には漁業者や加工業者ら約150人が訪れ、イカの生態に詳しい「函館頭足類科学研究所」の桜井泰憲所長(67)の言葉に真剣に耳を傾けた。
 終了後、イカ釣り漁業者の一人は「自然が相手なので、自力ではどうにもならない部分が多い。少しずつでも漁が回復してほしい」と祈るように話した。
   ■    ■
 第1部はイカ不漁が地域に落とす影を追う。

日本を一周するスルメイカの生涯(2018/04/16)

日本を一周するスルメイカの生涯
 日本近海のスルメイカは「冬生まれ群」と「秋生まれ群」という二つのグループに大きく分けられる。
 寿命は1年で、冬生まれ群は九州・沖縄諸島の西側の東シナ海で生まれる。太平洋を北上して主に津軽海峡を抜け、日本海を南下して産卵場に戻る。
 一方の秋生まれ群は山陰地方から九州北部の沖で産卵し、日本海を一周して生涯を終える。どちらも、まるで短い一生で日本列島を回る旅人のようだ。
 記録的な不漁に見舞われているのは太平洋側の冬生まれ群。八戸や三沢、泊、久慈の各港など、北奥羽地方の産地で漁獲される。回遊ルートの変化で漁場が変わったのではなく、資源量そのものの減少が要因と考えられている。
 北奥羽の産地では近海で小型イカ釣り船、中型底引き網船、大中型巻き網船、定置網などが漁獲しているほか、主に秋生まれ群を目当てに日本海に回った中型イカ釣り船が、八戸に冷凍品を水揚げしている。
 イカは生鮮品として食卓に上るほか、珍味などの加工原料に使われている。

仕入れ値高騰 耐え切れず値上げ/八戸の飲食店(2018/04/16)

ととや烏賊煎で提供するイカ料理。不漁で値上げを余儀なくされ、メニュー表には上書きの跡も
 スルメイカの長期不漁は、八戸市内の飲食業界にも影響を与えている。
 みろく横丁の入り口に店を構える「ととや烏賊(いか)煎」。「『イカの街』にふさわしい新鮮なイカ料理」が売りで、店内の水槽には活イカを泳がせている。
 今回の不漁でイカの仕入れ値は跳ね上がり、「イカ刺し」などの看板メニューも5割ほどの値上げを余儀なくされた。メニュー表にはイカ料理の部分だけ上書きした跡がある。
 木村健一社長(56)は「イカが売りなので、メニューから外せない。何とか上げないように抑えてきたが、耐え切れなかった」と申し訳なさそうに話す。
 県外から同店のイカ料理を目当てに訪れる観光客も多く「がっかりさせるようなことはしたくない。高くても無理して仕入れている」(木村社長)。下北半島や津軽地方まで足を伸ばし、苦労しながら活イカを確保しているという。
 昨年はイカだけでなく、マイワシ以外の魚種が軒並み不振だった。さまざまな魚種を大量に漁獲できる底引き網船が、しけの影響などで低迷したのも一因。漁業者は「昔は3日出て1日の休みだったのに、今は逆になってしまった」と休漁の多さを嘆く。
 仲買業者は「船が出なければ扱う魚もないし、値段も高止まりしてしまう」と指摘。飲食店関係者は「イカとサバを補うような魚が見当たらない。水産都市なのに、このままでは提供できる新鮮な魚がなくなる」とため息を漏らした。

イワシがイカを逆転 17年八戸港水揚げ数量(2018/04/16)

八戸港の水揚げ数量・金額
 八戸港は戦後、水揚げ数量で6度の日本一に輝き、1988年には過去最高の約82万トンを記録した。最近10年は、ほぼ10万〜15万トンで推移。2017年の実績は数量9万9972トン(前年比1%増)で全国7位、金額が199億9038万円(15%減)で9位だった。
 17年の水揚げ数量のうち、スルメイカが主体のイカは1万8281トン(17%減)で、全体の2割近く。不漁前の14年までは3〜4割を占めていた。金額で見ると106億6520万円(15%減)で、半分以上を占める圧倒的な存在だ。
 イカと並ぶ二本柱のサバは4万838トン(1%増)で4割を占める。ただ、魚体の小型化で締めさばなどの加工に向くサイズが減少。単価は下がり、金額としては38億8548万円(14%減)にとどまった。
 マイワシが主体のイワシは3万1431トン(36%増)。14年以降に急激に水揚げを伸ばし、16年はイカと肩を並べ、17年は完全に逆転した。13年と比べて数量は5倍以上となっている。金額は前年とほぼ同じ12億8595万円。
 3魚種合わせて、八戸港の水揚げに占める割合は数量で9割、金額では8割。その資源動向が地域に及ぼす影響は大きい。

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