18歳選挙権 主権者教育の現場から
デーリー東北

18歳選挙権 主権者教育の現場から

 今夏の参院選で18歳選挙権が導入されることに伴い、県内の高校、大学などでは、新有権者の投票意識向上の取り組みが進められている。主権者教育現場の現状と課題を探った。

(上)手探り(2016/02/29)

教師対象の主権者教育に関する研修会。年間指導計画から選挙の禁止項目まで内容は多岐にわたった=4日、青森市
 参院選イヤーが幕を開けた1月、県立八戸商業高で3年生の「現代社会」の時間に、ある“特別”な授業が行われていた。
 公職選挙法の改正により、選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられることを踏まえ、文部科学省が全国の高校に実施を事実上義務付けた「主権者教育」だ。
 社会科の教師が2014年12月の衆院選で実際に各政党が作成した経済や外交、社会保障、憲法など公約の資料を配り、生徒が有益であると考えた項目をチェック。その後、生徒同士のディベートを通じ、最終的にどの政党を支持するのか生徒に判断させた。
 県立三本木農業高でも、社会科の授業で、参院選の焦点の一つになるとみられる安全保障関連法について、教師が憲法の成り立ちや政府の安保をめぐる解釈の変遷などを教科書に沿って説明した。
 八戸商業高の三上雅也教頭は「実際の選挙でどのように考えるべきか学べたと思う」と強調。三本木農業高で社会科を担当する菅野知司教諭も「投票に行く大切さは伝わったはず」と期待を込める。
 一方、授業の効果がどの程度あるのか不安も。菅野教諭は「政治の授業は1回だけで、生徒がどこまで理解できたか分からない」、津軽地方のある県立高校長も「政治に関心の低い生徒の意識を向上させるためには1回では不十分。普段からの指導が不可欠だ」と指摘。どのように浸透させるか苦心している。
   ■    □
 主権者教育の中で厳しい環境に置かれているのは、卒業を間近に控えた3年生だ。ある県南地域の県立高校長は「3年生は受験や就職対策などに追われ、主権者教育をやっている余裕はない」と実情を語る。
 文科省は昨年、選挙の流れやディベートの方法などを記した「副教材」を作成し、全国の高校に配布。既に県内の全学校に届いているが、活用方法は講義の際の配布にとどまっているケースが多い。
 別の県立高校社会科担当教員は「講義だけで足りないのは分かっているが、副教材によるディベートは6〜10時間を要する。3年生が自宅学習に入る中、実施は難しい」と頭を抱える。
   □    ■
 高校での主権者教育と並行して、青森県選管では高校に出向いて講座や模擬投票を行う「選挙出前講座」を実施している。これまで高校は毎年1校ずつの実施だったが、昨年6月に公選法が改正されて以降、申し込みが殺到している。
 1回の講座で選挙の流れを生徒に教えることができ、主権者教育に時間を割けない高校にとって心強い味方となっているほか、教員を対象に主権者教育に関する研修会を実施し、全面的にサポートしている。
 学校や県選管が方法を模索する主権者教育は、生徒たちの目にどのように映っているのか。
 八戸市内のある男子高生(18)は「若者に身近な社会問題を取り上げてディベートさせるのはいいことだと思う」と方向性に理解を示す。
 同市内の別の女子高生(18)は「授業で投票の方法は分かったし、意識も変わった。しかし、なぜ選挙が大事なのか、そして投票に行けば自分たちにどんな効果があるのか、それをもっと教えてほしい」と訴える。

(中)盲点の世代(2016/03/01)

「ヤングフォーラム」の開催を控えて、内容などを確認する企画委員会のメンバー=2月中旬、弘前大
 選挙権年齢の引き下げに伴い、高校での主権者教育に注目が集まる中、高校を卒業して間もない新社会人や19歳の学生は、主権者教育が行き届きにくい“盲点の世代”でもある。
 「選挙権年齢引き下げのニュースは見たが、投票には行かないと思う」と話すのは、県南地方の警備会社に勤める男性会社員(19)。背景には、誰が当選しても変わらないのでは―という思いがある。「政治の知識は学校の授業で習った分だけ。特に興味はないし、候補者や公約の違いも分からない」と率直な気持ちを語る。
 別の男性会社員(18)は「投票には行く予定だが、職場や友達とは特に政治の話はしないし、知識や判断も自信がない」と情報不足を指摘。「テレビや新聞で勉強したいけど難しい。今更、誰に何を聞けばいいのか」―。戸惑いは隠せない。
   ■    □
 2月に本紙が青森県内の大学を対象に実施した聞き取り調査では「主権者教育の対策は立てているか」という質問に対し、「特に対策を実施しておらず、新年度も現段階では考えていない」との回答が多かった。県内では学生への対応があまり進んでいないと言わざるを得ないのが現状だ。
 大学で主権者教育が進まない要因の一つに、学生が一堂に集まる機会が少ないことが挙げられる。学年ごとのガイダンスを開いても参加しない学生もおり、学年が上がるほどその傾向が顕著だという。
 投票率向上の活動に取り組んでいる大学でも、現段階では新年度のガイダンスで、生徒に投票を呼び掛ける程度にとどまっているケースが多い。大学の担当者は「大学の性質上、主権者教育に特化した時間を取るのは難しい」と語る。
   □    ■
 一方、若者の政治意識を高めようと、自主的に立ち上がる学生もいる。
 「席は自由にした方が気軽に話せるんじゃないかな」「ワークショップの締めはどうする?」
 3月3日の選挙啓発イベント「ヤングフォーラム」の開催が半月後に迫った2月中旬、弘前大に企画委員会のメンバーが集まり、当日の流れを確認した。
 同フォーラムは、青森中央学院大や弘前大など県内の大学生8人が中心となって企画。ワークショップや県議会の傍聴、県職員との昼食、県議との意見交換など、学生の視点を取り入れたのが特徴だ。
 特にもともと政治への関心が高い学生だけのイベントにならないように気を配っている。企画委員会のリーダーを務める青森中央学院大1年の福井崇弘さん(19)は「政治の話をするのは特定の友人が多い」と、今も政治が若者にとって縁遠い存在だと指摘。
 「鍵は『仲間の輪』をいかに広げるか。友人の影響で政治への関心が高まる可能性は他の世代よりもあると思う」と期待を込める。

(下)家庭の役割(2016/03/02)

新有権者になる娘を見守る若山忠義さん(左)。親が選挙に行く姿を見れば、自然と重要なことだと気付くのではと感じている
 高校などの教育現場では、主権者教育の取り組みが本格化する一方、生徒にとって一番身近な“家庭”の役割が、政治への意識を高める上で重要な鍵を握るとの見方もある。高校生の子を持つ親は、今回の選挙権年齢の引き下げをどのように感じているのだろうか。
 「年齢を下げたところで本当に投票に行くのか」「ちゃんとした知識や判断力が伴わない18歳に投票権を与えるのは不安だし、子ども自身も戸惑ってしまうのでは」
 高校生が選挙権を持つことについて、八戸市内の街頭で親世代から話を聞くと、こんな答えが返ってきた。
 中には「高校生に選挙権は必要ない。早すぎる」という厳しい意見も。世界的には18歳選挙権が主流とされているが、急激な変化に親世代も揺れている。
   ■    □
 「最初は選挙権年齢を下げて本当にいいのかな、きちんとした判断ができるのかなと疑問だった」
 こう振り返るのは青森県立八戸高PTA会長の若山忠義さん(49)。一方、20歳と判断力がそんなに違わないのではないかという複雑な思いもあった。
 若山さんの父は、生前、八戸市の選挙管理委員会の要職を務めており、少年のころから選挙を身近に感じる環境だった。
 「お父さんは誰に入れるの?」「それは親子でも教えられないんだよ」
 政治について深く話をしたことはなかったが、そんな何げない父との会話が印象に残っている。
 20歳になり、有権者になると、自然と投票所に足が向かった。分からないなりに自分で判断し、一票を投じた。
 現在、父となり、高校2年生の娘を持つ。選挙に関するテレビ番組が流れたり、娘に聞かれたりすることがない限り、家庭で政治や選挙について話をすることはめったにない。
 ただ、若山さんは自らの経験から「家庭での会話というより、親が選挙に行く姿を見ながら育てば子も自然と重要なことだと気付くのでは」と強調。最初は選挙権の引き下げに半信半疑だったが、今は若者の考え方や意識が変わる良い機会かもしれないと感じている。
   □    ■
 専門家も家庭環境の重要性を強調する。青森中央学院大の木村良一名誉教授(政治学)は「若者の投票率の低さは親の政治に対する関心の低さに比例している」と指摘。親が選挙に行かない家庭ほど、子どもの政治離れが目立つという。
 主権者教育を行う教員は、文部科学省や県教委から副教材を使った指導方法などを学ぶ一方、親にはそういったものがない。県高校PTA連合会では、保護者向けの勉強会の開催などを求める声が上がっている。
 木村教授は18歳選挙権がもたらす親世代への波及効果に期待を込める。
 「家庭でも話題になるような授業や課題を学校で実施すれば、子どもを通じて親の教育にもなる。その結果、親世代の投票率向上につながるかもしれない」

chouchou
  •  「デーリー東北」の販売店で組織するデーリー東北販売店会が、地域に密着したニュースや行催事などを紹介します。
  •  47NEWSは47都道府県52新聞社のニュースと共同通信ニュースを束ねた総合サイトです。
  •  全国の1,300を超えるショップと47都道府県の地方新聞社が一緒になって活動をしています。青森の“おすすめ”はこちらから。
  •  広告ビジネスに携わる方々に「新聞」と「新聞広告」の特性をご理解いただくことを目的として運営しています。
  •  社会人も、学生も、親子も、もっと新聞のつかいかたを知ると強い味方になります!「新聞のある暮らし」を楽しんでください。
  •  自分に合った読み方を診断してみよう。きっと新聞の読み方が変わるハズ?

  •  日本で唯一の「ナショナル・プレス・クラブ」です。人々の「知る権利」に資するジャーナリズム活動の拠点です。