在宅医療の現場から―あおもりは今―
デーリー東北

在宅医療の現場から―あおもりは今―

 入院や外来ではなく、患者の居宅で医療を提供する「在宅医療」。高齢化の進展に加えて患者らのニーズも多様化し、その必要性は高まっている。青森県内の現状や課題を追った。

(下)医療と介護の連携(2017/01/13)

全国の自治体や医療関係者らが集まった「在宅医療推進フォーラム」。在宅医療への関心の高さをうかがわせた=2016年11月23日、東京ビッグサイト
 少子高齢化が進む現在、国は増大する医療費を抑制し、持続可能な社会保障制度の確立を目指し、在宅医療を推進している。多くの国民が自宅で最期を迎えることを望んでいる、との調査結果も背景に、自治体や地域との連携ネットワークを活用した在宅医療の普及を狙う。
 在宅医療を提供する場所は、病院や診療所以外で、自宅の他に有料老人ホームなどの施設も含まれる。
 青森県は昨年3月、高齢化がピークとなる2025年の医療需要や必要な病床数など、将来の地域医療の在り方を示す「県地域医療構想」を策定。25年の県内在宅医療需要について、症状の比較的軽い人が在宅に移行したと仮定し、13年の1・5倍の1日当たり1万6179人と推計した。
 県は実際に訪問診療をしている医師数を把握していないが、「在宅療養支援診療所」を増やすなど、訪問体制の整備や機能強化の必要があるとの認識を示す。
 また、厚生労働省は、在宅医療と介護の一体的な提供に必要な支援を行う「在宅医療・介護連携推進事業」を、18年4月までに全国の市町村が行うことと定めた。
 同事業は、在宅医療に関する相談窓口の運営や地域住民への普及啓発など、八つの取り組みからなる。事業を担う市町村と医療関係者がタッグを組み、連携して取り組めるかが今後、各地域の医療の質を左右することになりそうだ。
 青森県内自治体の中でも、早くから同事業に取り組む弘前市は、市医師会に委託し、16年4月から弘前地区在宅医療・介護連携支援センター「そよかぜ」を運営している。
 相談事業では、地域住民や病院、ケアマネジャーなどから相談を受けているといい、市医師会の新堀猛事務局長は「1人の患者に関わる複数の医療・介護関係者の橋渡しをする役目を担っている」と説明する。
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 昨年11月に東京都内で開かれた「第12回在宅医療推進フォーラム」。全国から自治体職員や医療関係者ら約千人が集まり、関心の高さをうかがわせた。
 シンポジウムでは、先進地の徳島、千葉県船橋、東京都西東京の3市の市長と医師会長が、それぞれの取り組みを発表した。
 人口約26万人の徳島市の遠藤彰良市長は「超高齢社会や多死社会が到来する上で、在宅医療の体制整備は喫緊の課題だ」と強調。
 在宅医療と介護の提供体制整備に向けて、市と医師会が意見交換する「徳島あんしんタッグ」の会合を定期的に開くなど、連携を強めて事業を推進している成功事例を示した。
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 高齢化の進展に伴い、需要の拡大が見込まれる在宅医療。医療資源が乏しい郡部で推進することは、都市部以上に難しい。
 医師の育成や支援、医療と介護の連携の推進、病院から在宅への移行体制作りなど、解決すべき課題は山積している。だが、高齢になり、病気になっても、住み慣れた自宅や地域で過ごすためには、地域の実情に合った包括的なケアシステムの創出が急務といえる。
 在宅医療に取り組む八戸市の「はちのへファミリークリニック」の小倉和也院長は「在宅医療が成り立たないと、地域医療の崩壊を招く。行政を含めた地域全体で、そういった状況が地域で既に始まっていることを認識し、地域包括ケアの構築に取り組まなければいけない」と訴える。

(中)最期の場所(2017/01/12)

「自宅で母をみとることができて良かった」と話す沢木アケミさん(仮名)。在宅医療についてもっと早く知っていれば―とも感じている=2016年12月、八戸市内
 八戸市の沢木アケミさん(62)=仮名=は2015年10月、自宅で義母の最期をみとった。死因は老衰。94歳で天寿を全うした。
 義母は大病を患ったことはなかったが、その年の初めに体調を崩して1カ月ほど寝込んだ。それでも、春が来て暖かくなると徐々に回復し、散歩したり近所に買い物に出掛けたりするまでになった。
 その後、数カ月間は元気な様子だったものの、10月に入って急変。食事を取るのもトイレに行くのもままならなくなり、見る見るうちに弱っていった。寝込みがちになって1週間以上たつと、目も開けず、呼び掛けにもはっきりとした受け答えができなくなった。
 当時、夫が単身赴任していたため、義母と2人暮らしだった沢木さん。義母は長く病院にかかった経験がなく「治療について、どこに相談すれば良いかが分からず、本当に困った」という。わらをもつかむ思いで市に相談すると、往診する市内の医療機関を教えられた。
 その日のうちに医師を訪ねて事情を説明すると、次の日には自宅に診療に来てくれた。医師からは先は長くないと告げられ、衰弱した義母が心肺停止に陥った場合の対応について判断を求められた。戸惑いを感じつつ夫と相談し、延命せず自然な形で最期を迎えてもらうことを選択した。
 義母が息を引き取ったのは、その翌日のことだった。「少し離れていた間に呼吸が止まっていた」。訪問看護師に電話をすると、医師らが自宅に駆け付け、死亡が確認された。
 かかりつけ医がいない場合、急に往診を頼もうとしても、対応してくれる医師が見つからないこともある。沢木さんのケースは、それと比べて恵まれていた事例と言える。
 沢木さんは「自宅でみとることができて良かった。義母も幸せだったと思う」と振り返る。一方、「寝込んでから往診を頼み、亡くなるまであっという間だった。相談先や往診してくれる医師を早くに知っていれば、落ち着いてみとることができたのかもしれない」とも感じている。
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 在宅医療のメリットの一つに、患者が慣れ親しんだ自宅で療養し、平穏な最期を迎えられる点が挙げられる。そのためには、医療や看護の十分な体制整備のほか、介護をする家族の理解や支えが不可欠だ。
 自宅でがんの母親を介護する同市の女性(62)は「本人にとっては家にいるのが一番幸せだと思う。ただ、介護が続くと家族の誰かが仕事を辞めざるを得ない」と不安を吐露する。
 厚生労働省が08年に全国の成人男女5千人を対象に行った「終末期医療に関する調査」によると、最期を迎える場所として60%以上が自宅を希望。一方で、66%が自宅で死ぬまで療養するのは「実現困難」と回答した。その理由として「介護してくれる家族に負担がかかる」が約8割と最も多かった。
 市内のある医師は「在宅医療は本人が望み、家族が介護できる環境にあることが前提」とした上で、青森県内の現状に関し「医師が足りず体制も整備されていない現状で、希望者のニーズに応えるのは困難。対策が打たれないままでは、在宅医療を受けたくても受けられない在宅難民≠ェ増えてしまう」と指摘する。

(上)24時間365日態勢(2017/01/11)

患者宅を訪問し、診療する竹本照彦所長=2016年12月12日、八戸市
 昨年12月12日午後2時ごろ、八戸市南類家1丁目にある八戸生協診療所。午前の診察をようやく終えた竹本照彦所長(65)が、白衣を着たまま小走りで車に乗り込んだ。車内で待機していた看護師と情報を記録する医療秘書、運転手と共に訪問診療に向かうためだ。
 1人目の患者は、がんと闘病中の八戸市内の女性(86)。家に着くとすぐに診察が始まり、看護師がてきぱきと血圧や体温を測った。
 「先生、薬を頂いたらご飯が食べられるようになりました」。ソファに腰掛けながら、にこやかに話す女性の表情は明るい。
 同居する女性の長女(62)は、1人暮らしの母親を介護するため、約1年前に市内の自宅から実家に引っ越してきた。長女は「病院へ行くのに車に乗せたり、歩くのを介助したりするのが一番大変。家に来てもらえて助かる」と話す。
 診察は20分ほどで終了。竹本所長は玄関前で待っていた車に再び乗り込み、次の患者の元へと急いだ。
 訪問して診察する人数は1日平均10人ほど。診療所への戻りが夜になる日もある。それでも「患者さんの自宅だと、病院では見られない穏やかな顔や前向きな姿勢が見られる。人間同士の関わりができていると感じる」とやりがいを語る。
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 訪問診療の対象は「疾病、傷病のために通院による療養が困難な人」とされ、個々の患者が該当するかは本人や家族と相談した上で、主治医が判断する。
 国が定める要件を満たす「在宅療養支援診療所」である同診療所には現在、常勤医の竹本所長のほか、非常勤医、研修医の3人の医師が在籍する。脳梗塞の後遺症がある人やがん、認知症、神経難病の患者らの居宅を訪問しており、24時間365日態勢で対応している。
 訪問診療の患者数は、ピークの13年が年間で延べ4534人。近年も1カ月間で平均200〜300人弱と高い水準で推移している。
 在宅医療を担う医師にはみとりや24時間の対応が必要で、業務がハードという理由から取り組む医師はなかなか増えない。八戸地域でも少数の医師に大きな負担がのしかかっており、患者や家族が在宅での療養を望んでも、受け皿不足から希望通りにならない現状がある。
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 「この子を家でみとるのが私の役割、今の生きがいなんです」
 昨年夏、重度の障害がある50代の男性を訪問した際、男性の80代の母親が竹本所長に話した。母親は病院や施設ではなく、自宅で息子の世話をすることを選択している。
 多くの患者にとっては、自宅が最も安心できる場所だ。だが、たとえ医療や看護などのサービスを利用していても、介護をする家族の負担は軽くはない。そうした家族を支えるために、訪問診療をする医師は、患者本人と同時に家族の心身の状態を気遣わなければいけないケースもある。
 竹本所長は「患者さんや家族が在宅を希望した場合、それを支える医療や介護の態勢をつくることが大切。そのためにも、少しずつでいいから往診をする医師が増え、在宅医療の輪が広がってほしい」と訴える。

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